春風音
霜天
どうにもまだ遠いこと
そんな手のひら
迎えの来ないバス停は
その日も閉じたまま
窓際の階段は駅前で途切れる
どうにもまだ遠いこと
私は少しだけ、溶ける
ポケットの中の余白を
手紙の下書きに使ってみる
冬が溶けると辺り一面が水没する
そんな
泳ぎの練習をしないといけない
クロール
緩やかな、手付き
少しずつ私たちが、溶ける
しなやかな深呼吸
その中の風音に、むせてしまう
手に取ったほうきを
2階の窓から
溶け出した私を掃き出す
もうすぐだ
少しずつが、溶ける
濡れた手のひらで握り返す
遠い空では、水没した街で
懐かしい人が
ポケットの中の零れた言葉を
待ち焦がれ
また少し、溶ける