幻想的な発芽
A道化





S…、という
微かな子音
の、雨の群れ
の、中


鼓膜に触れるそれ以外は幻聴だと
どこかで知っていたのに
この視線が向かってしまうのは
桃、という発音の


幻聴の、春へ
待ちわびていたかのようなあどけない仕草で
発芽してしまうこの視線は
幾つもの雨に触れ、濡れ、逸れ
触れ、濡れ、折れ

しまい


あどけなさを恥じた
嗚呼、この視線が、蔓草であることを、蔓草であることを
雲の曖昧な輪郭に乗じて誤魔化し終着地の無い蔓草の先端を、先端を
その雲からの、微かな子音の、雨の群れに、紛れさせ
微かな、子音に、なり、一度だけ
落ちたらば


静かに逆行する視線は
種子のような眼球に還る
そして、私の内側へと発芽する私は
今度は幻想を欲しがり、瞑り、そうすれば
ほら、まず輪郭が消える、輪郭が無ければ、さあ
あとは自由な蔓の生育を


S…、という
微かな子音
の、雨の群れ
の、中の私にて



2005.3.3.


自由詩 幻想的な発芽 Copyright A道化 2005-03-03 00:57:53
notebook Home 戻る