白い夜または群青の山の
はて

彼の視線には光が細かく見えていた 夜が黒
く開いている時に青白い外光に筋を描く 森
の奥に連なる木々は幹だけを残し枝葉は夜に
溶けていて重ねて細かい葉を描く くっきり
と影を描く 迷い込んでいる辺りの森で私は
枝を拾い火を起こす 影が奥まった濃やかさ
を持ち描かれている彼の 一様にへいっと張
り付けられた影 火のほとりで私はそんな影
を作る 彼には必要がなかった明確な灯りだ
ったところ 星が 最後の くっきりと 彼
が 私は望んではいないはずだ

私は雪の積もった屋根を見ていて白く吐かれ
た息は私のものではっきりと消えていってし
まうのを見届けて それからが向こうに見え
ている 吐かれたそれから 私は彼を知らな
い きっと 筆先を追いかけて筆を持つ指を
見ていない 私は彼を見ていない 回廊にな
った広い空間に幾つも飾られた絵を巡り歩い
ている 彼の視線を追って 街はいくつも足
下に屋根を張り向こう側に見える光を彼は描
く くっきりと 呼吸は消えている 彼の 
私は屋根を見上げているところで その街を
知らない

ずっと 光を掛けられた山は群青の濃く中腹
から突き出された滝が白く動くはっきりと消
えずに流れていく 私は仄暗く流されていく
絵のほとりで落ちる音を探している 

森の辺りで絵を描き続ける彼を置き去りにし
て私は火を起こす くっきりと 窓の内歌っ
ている私が電灯に照らし出されている夜の中
で翻す音楽は響かないで途切れる 窓によっ
て それは花ではなかった開かれている明や
いでいるが花ではなかった 夜の影は彼の種
となり指先を濃やかに 私は 星が 見えて
いない 私は夜の森も白い滝も見ることは望
まない部屋 窓で切り離された彼

 くっきりと 私が見ている彼は後ろ姿で絵
を描いているところを見ていない私が彼の捉
えた光を見ていない私が彼の描いた指をみて
いない私が彼を見ていない くっきりと 浮
かんでいることを知っている   


自由詩 白い夜または群青の山の Copyright はて 2016-11-03 00:27:36
notebook Home 戻る