『お菓子をくれなきゃ』
葉月 祐


狭い夜にいつまでも耳鳴りに似た静寂が居座って

私は緩やかな速度で平衡感覚を失っていく


何も無い訳ではないのに何も掴めないこの手には

言葉にもしたくない汚れだけがこびりついている


不幸自慢なんて人生をさみしく彩るような事はしない

ただ今は感情のネジが抜け落ちて箱が大口を開けているだけ

それは時期的にもハロウィンのジャック・オ・ランタンみたいで

いっそ面白そうじゃないかって思っているよ


中身を限界までくり抜いたカボチャみたいに

口角を吊り上げてこの箱を笑わせてやりたくて

自分も無理矢理それを真似てみるけれど

やはりそれもうまくいかなかった


この夜もまた大口を開けて私の中にある暗闇を狙っている

油断すればそれは一瞬の事だろう

箱はカラカラと満たされない音を鳴らして揺れていた

夜を照らすカボチャだけがケラケラ笑っている




ああ、君には何もあげないよ

どれだけこの静けさのボリュームを上げてもね

イタズラしてくれてもあげるものが無いから

諦めてくれるかい



――――――その飽和した感情で良いだって?

尚更ダメだな、

これは君の持ち物にはならないものなんだよ




悪いけど他をあたってくれるかな
















自由詩 『お菓子をくれなきゃ』 Copyright 葉月 祐 2016-10-30 17:09:49
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