雨の鏡
水菜

白く細い指の様な光の線が、つぅぅとガラス面を掠めて
闇の中につらつらと水滴が垂れる
窓ガラスは、鏡となって
幽鬼の様なわたしの顔を映す

ざぁっと、広がっていくような雨の音が
わたしの意識を奪って

瞬間訪れるわたしの中の白い空白に
音は消える

水は、命みたいで

光は、魂みたいで

もし今、わたしの魂が、空に舞い上がるとしたら

わたしは、雨と遊ぶのかしらと

ざぁっと、広がっていくような雨の音を聴き惚れながら夢想する

白い衣を着た面影を何処か知っている風の少女が
肩までの黒髪を揺らしながら楽しげに舞う

あなたも一緒に参りましょうと
わたしを柔らかく舞いながら誘う

幻影は、美しくわたしを誘い
わたしは、その哀しさに泪を誘われて

あなたも一緒に参りましょうと
わたしを誘ってくれた少女は

すぅっと雨が作り出した鏡の先 
わたしの前でガラスに唇を寄せる

艶のある美しい黒いまつげに縁どられた柔らかな白肌と
まろみのある子供らしい柔らかな頬の曲線

冷たい雨に濡れている筈の頬は柔らかく薄紅色に紅潮し
瑞々しい野苺のようなぷるんとした唇が柔らかく窓ガラスから離れた

ほわほわとした、柔らかそうな光の集合体が
少女の周りを覆うと

ふっと、幻影は、わたしの前から消える

消える

ざぁっと広がる雨の音に
魅せられて

止まらない泪に

哀しみを覚えて

つぅうると、白く細い指のような光の筋が窓ガラスの向こうに通って

消えた



自由詩 雨の鏡 Copyright 水菜 2016-10-28 21:34:52
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