渡り鳥伝説 
白島真

 

それを言うと
渡り鳥のことを思い出す
羽搏いていた鳥が
水面に映った自分の姿を認めると
鳥は堕ちる


波が代わりに羽を動かす
と言うのは便法で錯覚だ
鳥が波にそそのかされて
浮かぶ赤い実を啄んだから
(とでも言っておこう


「魅力」という言葉を
初めて知ったときのことを覚えている
十歳の放課後だ 
だが、「鳥」や「認識」「二元論」「をかしみ」を
いつ知ったかは覚えていない
もちろん
「私」という言葉は今でも知らない


蝶々を知って
何でも蝶々、蝶々と言って
諫められたので
言葉と世界が繋がった
 (とでも言っておこう

    
     ほんとうに
    「言葉なんておぼえるんじゃなかった」だよ*

 
私が
鳥になる
唆した蛇はもういない
諫めただろう親ももういない
関係を持ったのは
女より言葉の方が事件だった


私が鳥であると言うと
世界は真っ二つに分かれる
ここに在ることが
意味を持ち始めると
私は空を飛ぶさわやかな
渡り鳥になれない


ほんとうは
言葉を使わない詩人になりたかった
透明なくにから
透明なくにに渡ってみたかった
でもそれは無理だから
私は堕ちながら
空に逃げる


    
*田村隆一《帰途》より  





自由詩 渡り鳥伝説  Copyright 白島真 2016-10-18 18:13:06
notebook Home