自我境界線上のアリア
紫音

掴めそうで掴めない霞のような現実
浮遊する心が忙しない廃墟をすり抜ける
あたしはあたしが感じるほどあたしじゃなくて
あたしはあなたが意識するほどあたしじゃない
見上げた空のどこまでも続く世界に
あたしが拡散して希薄化して溶けていく
キスをしているあたしはとても客観的で
現実という世界は創られたリアルに彩られる
とても愛されているはずなのに
それはとても他人事のようで
美味しい料理を目の前にしても
美味しいと感じるあたしはあたしじゃない
あたしと世界を繋ぐ絆は透明で
透明というのはピュアではなくて見えないだけ
「何か」を渇望する脳内麻薬が溢れ出し
見えるもの触れるものが揺らいでいく
こんなにも命で溢れているはずなのに
無機質な感覚があたしを分解していく
車窓から見える風景を映写機で見て
それを記憶に焼き付けたときに
残った細切れの風にしなる木々の緑は
あたしと世界との間の「何か」を炙り出す
そこにあるのは現実じゃない現実で
それを見ているのはあたしじゃないあたしで
どこまでも広がる海が閉ざされているように
開放した感覚すらどこにも届かない
世界を作る全てもそこにいるあたしも
ひしゃげて軋みながら崩れゆくリアル
喜びも悲しみも愛も憎しみも一瞬の錯覚
それはとても無意味でとても素晴らしいこと
無機質な有機体が意識という錯覚で
創られたリアルを彩色していく


自由詩 自我境界線上のアリア Copyright 紫音 2005-03-02 12:29:12
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