秋の暮れ
Lucy

 

沈殿する鉛の溶液
筏の上を旋回する風
雨燕の航跡に
月の光を編み込んで
透かし見る夕暮れの
押しボタン式信号機


「おつきさまはついてくるんだよ
ほらずっとみててごらん」と声がするので
振り返ると
どうやら孫を抱えた祖母らしき人
目を泳がせる幼子は
立ち並ぶマンションの隙間に輝く
大きな月を
まだ見つけてもいないらしい


歩道橋の下で立ち止まり
「ほら、がんばろう
さあ、のぼろう」
と、
小声で犬を励ましているのか
それとも励まされているのか
老犬のリードを持って
進めずにいる
老いた人


何処までも美しい夕焼けは
たちまち暮れる
疲れた足を引きずって
私が家に着くまでの間に



自由詩 秋の暮れ Copyright Lucy 2016-10-14 21:51:26
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