藍色の空と紅い口唇と蒼白い月と琥珀色のワイン
本城希望

今夜の月は少し冷たい表情をしているせいか
君の表情も少し冷たく感じる
澄んだ藍色の夜空に浮かぶ蒼白い月の灯りに
深紅に染まる口唇がより一層、君の無表情に拍車をかけた
少し虚ろな瞳で僕をじっと見ている
わざと焦点を合わせずに瞬きの数も抑えて
ただ視界の中に僕が入っているだけの感覚で
いてもいなくても差し障りのない感情で
一言も喋らずただ時だけが無意味に過ぎていく
この夜の透明な時間だけが深く呼吸をしていた

テーブルには注がれた琥珀色のワイン
君はグラスに手を添えたまま一度も口に運ぼうとしない
僕の頬がほのかに色づき始めても会話はない
静かに流れるチャイコフスキーが
ふたりの間を取り持っている
いや、ふたりの時間を演出しているのだ
この一見不快に見える時の過ごし方も僕らにとっては大切な時間
今日の君の表情はいつになく香ってきて飲み過ぎてしまったようだ


自由詩 藍色の空と紅い口唇と蒼白い月と琥珀色のワイン Copyright 本城希望 2003-11-13 18:34:52
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