そうしてこれはまるで降り積もらない火山灰のように
ホロウ・シカエルボク





汚れた屋根に降りそそいだ雨が
酷い色になって窓をつたっている
音楽を聴く気分でもなく
本を開くのも億劫な


隣の空地に投げ込まれる空缶
明方には野良猫のおもちゃになる
雑草は果てしなく
土地と関係のない人間を遊ばせようとはしない


先週妙に張り切っていた夜回りのパトカーが捕まえた子供は
醜く高飛車にやつらに張り合っていた
半時間続いたところで俺は玄関を開けて
「夜中なんだから場所を変えてくれ」と言った


手前勝手な口をきくしか能がないうちは
どんな本気も届きはしないよ
あんたは
あんたを知らない誰かをうんざりさせるだけのいきものさ


ここのところ俺は
内側から窓を塞ぐための板を物色してばかりいる
やつらの声を締め出してやるのさ
わりと丁寧な細工を凝らしてね


部屋の中で聞く雨は
正確には雨ではない
それは雨音に過ぎない
些細なことではあるけれども


毎日これほども
不規則に雨が続いているのに
この窓の下をうろついてる連中は
不思議と傘を持とうとしない
悪趣味な色遣いの服をびしょびしょにして
酒で焼けた声を張り上げてる


誰かのやり方に
誰かの生きかたに
誰かの生活に
不要な栞を差し込もうとする、誰か


言い訳をしたり
他人の目盛りにおかしなト書きを加えたり
まったくお笑い草だぜ
寄道ばかりに精を出しやがる


雨がトタン壁で跳ねるから
リズムがおかしくなっちまう
だからポーズを押したままにしてるんだ
欲しいリズムでなければ意味はないからね
それならばノイズの方が
ノイズの方がずっと心地いいとしたもんだ


同じ山の夢を
今年のうちに二回見た
それは実家の裏にある山だが
サイズがまるで違っていた
二度とも真夜中で
あまりいい天気じゃなくって
俺は実家に遠い方の坂道からその山を上っていた
熱のない溶岩が
左官工によって薄く
引き伸ばされたような空の色だった
俺は上って、その山を上って
頂上付近にある施設に着いた
そこの二階部分の
広く設けられたベランダにある
清潔な白いシーツのベッドに寝転んで
側に来たものにこう話していた
「この坂をベッドで下って
実家に着く
そうすればそのまま眠れる」
シンプルだけど
的外れだった


残念ながら俺は
ベッドが坂道を滑り降りるところを
見ることは出来なかった
ベッドに寝転んだ時点で目が覚めたからだ
でも
根拠はないが
あのベッドはきっと
坂道を下ることはなかっただろう
なぜなら
俺は喋り倒して
いっこうに滑ろうとしていなかったからだ
(だいたい、どんな風に滑り出せばいいのだ?)


ただ俺はあの空の色を
あの殺風景な
木々もろくにないような山肌を
おそらくは現実的に理解していて
それを夢の中でそんな風に描いている
俺が見ている景色は
ずいぶん前から
ずっと
そういうものだった




そう
こんな


むせかえる雨の夜の中に居たって




自由詩 そうしてこれはまるで降り積もらない火山灰のように Copyright ホロウ・シカエルボク 2016-09-29 01:41:39
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