新涼灯火 (三篇からなる オムニバス)
るるりら

【新】

手と手と てとてとてと かさなりあって音がする
足と足  大きな靴のなか小さな足が とてとて動く
とおい日の かげが
わたしを追い抜こうとして とてと 立ち止まる

冷蔵庫に 貼られた「幻を見る人」の文字が
なぜか 「幼を見るト」に変化している

ちちのくつの ちからは
わたしがはいたから ちからがあった
がらんどうの朝 
わたしは あの日の 靴音を聴く 



【涼】

いつもこうして 毎日毎日 パソコンをつつく
詩は誰のため?
誰の物でもないかもしれないよ
誰も読んでなんて いないかもしれないんだよ 

だれそれのたそがれも
とてつもなく広がっていて
とおいむかしの人のことばが
誰かをすくったり 
だれそれを越えて 一遍の詩が
わたしの前に 広がっている

たまには
人でない生き物が読んでいるのかもしれない
わたしの書いた詩も
だれのものでもないかのしれないよ
小鳥のためかもしれないし
かなしみ横丁にたつ柳のためかもしれないよ

【灯火】

車窓の雨を見ていた
大型バスは わたしを乗せて雨の中を走る
わたあめ機の中を走る
雨は白い糸をひいて
しかも わたあめの糸のように 
ほうぼうに しなる

不思議だ
天も地も ひっくりかえし
音まで ザラメ砂糖の音がする
あめのむこうがわを見ていた
なにもみえない
むこうがわを

ばかていねいに
見ていた まばたきも忘れて
見ていた
ぼやきも愚痴も嫉みも
わたしを取り囲んでいた
無数の糸が私をとりかこんだ

けれど、けして
わたしは、繭のようにはならなかった

目を閉じようとはしなかったからだ
なにも見えずとも見ようとしていたからだ
空っぽなままを 耐えていたからだ

となりで
目の見えない人が寝ている
おなじように目を閉じることができたなら
ゆめを見えることもできたかもしれなかった
雨音を拍手の音だと思えたかもしれなかった

それでも
見える人でありたかった
なんのあかりも
みつけだすことが できないとしても
 


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自由詩 新涼灯火 (三篇からなる オムニバス) Copyright るるりら 2016-09-22 14:02:37
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