アネモネの詩 (初稿)
もっぷ

たぶんそこには 無 すらなかった
透明 すらなかった
そのまなざしは父親には赦された
だけど母親は女の子だったから赦せなかった
のだろう(たぶん)自らを

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無、を得て ほしがったのは
なみだの源泉だった
、透明という響きを知って
それはたとえて初恋と言い得るほどに
焦がれる存在に値して
だから恋して
もとめて

ついに不意打ちのなみだの夜 その
ひとつぶは 開いてあった手帳の
白い色彩だけのページに落ちる
、三つ編みの少女はそこまでを昨日と決め
髪を解放すると
私、になって日日を見つめる
鏡の彼女もいまだ泣いているし
いっそ靴など脱ぎ捨ててはどうか
悟ってしまった母性への思慕を殺し
すこしだけおとなの匂いを萌しながら
あきらめてこども部屋への階段をのぼる

夢のなかで父さんを追いかける
母さんの名を忘れ忘れながら
夢のなかで私はどこまでも
、あした目覚めて椅子を喪い弔う
私は泣く あの夜は可逆だと信じて
(かん高く割れる音)
いない、信じてはいなかった私を
映すものは惜しみなくて その、

訪れたあたらしいなみだの朝 その
ひとつぶが てのひらのうえで
ひかり かがやき それは



自由詩 アネモネの詩 (初稿) Copyright もっぷ 2016-09-22 03:51:36
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