ホルン
ただのみきや

同じ道を歩いた
くり返し歩き
くり返し問い
くり返し答え
水の写経のようになにも
こころの所作だけが
ただ――


くり返し祈った
石の中のロザリオ
沈黙の塵は満ちて
尚も空白へ捧げられる
乾いた蕾の呼吸
ただ――


葦の先の蜻蛉
少女の髪飾り
風の指がもてあそぶ火


橋の上で絵描きの目をした男は
はきだしたけむりがすべてで
願わなかったおそらくなにも


廃屋で笑っている
古い雑誌のグラビアのような恋人が
記憶をめくっても見当たらない
種子を持たない綿毛のような
感触だけ
破裂 して
意識を離脱する


無限の側から
歩いて来ることばに欹てて
くり返し
くり返し食べる
果実の中の時計は透明にする
水の写経
石のロザリオ


絶望と希望はひとつの道筋にある
過去と未来のように
過去も未来も可能性の中にある《あった》ように
絶望と希望は絡まり隣り合い絶えず甘く
囁く無数の
ウツボカズラ


生と死がひとつの道筋でありながら
いつも隣り合うように
過去と未来も
絡まり合う蔓の
ぐるぐると狂い返す
筆の眩暈の溢れが水浸しに今だ





               《ホルン:2016年9月21日》









自由詩 ホルン Copyright ただのみきや 2016-09-21 21:38:02
notebook Home 戻る