◎深海からの伝言
由木名緒美

耳を近づけて寄り添おうとするあなたの
頬に触れることは赦されない
私の醜さは
あなたの前では祝福となる
強風の吹きすさぶ耳の中では
秘匿こそが美徳である筈なのに
あなたは一枚一枚
そっと衣を脱がせていく

賭けた代償はこの際どうでもよくて
そのチップにどれだけの価値があるか
あなたは始めから負けようとするように
リスクを差し出す
詐欺師のように慎重で
聖者のように隙がない

視界 足取り 鳴りやまない動悸
それらすべてが あなたの愛するものならば
奈落とはそれを覗く異端者の
逆光の眼差しを浴びるためにあるのかもしれない

世界は今 深海のように
異形の主達を懐にかくまう
本当の美しさを隠そうとでもいうように
時空を超えた二重螺旋が太陽光を憐れむ
あなたが両手に包んでくれるなら
私は陸に打ち叩かれようとも
その肢体を晒すだろう
柔らかな瞳孔に深海を見出して
その中で泳ぐことが叶わないと悟る時
同胞達は地底から憐みの声を上げる
そして夢を見続ける
透明な被膜に色を染め
あなたの水槽で囀る
美しく身の程知らずな一時を






自由詩 ◎深海からの伝言 Copyright 由木名緒美 2016-09-17 01:18:39
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