矢部川 借景
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油まく模様のみなもには色々がくる
熟れた椅子の脚や膨らんだ仔ねこらが
うつした空を破りながら流れてき
こまをなくしたバイオリンなど
海にとどくより岩くぼに憩う
そろそろ沈むことなど気にもせず
鐘撞くに蜻蛉がとびたかく
観衆は満天の銀河レンズ
伴奏など要らない
みぎわにたつ葦
円もたかまれば

太古の風とかわきと月とが
水をおしたりひいたりする
これが別れた父のくちぐせだった
偶然いあわせた羽虫がその中へ這いいる
松脂があとすこしで琥珀にかわる
弓と語らったあまたのことぐさ
河原には枯れたみずくさ
いろ褪せたかわ蟹のぬけがらをふむ
はだかの少年の陽にやけたバランス
欄干から跳ねて反れた空で句点になれ
つかのまおちた無重量

夕ぐれ時には
こまかな波のすきまから
源五郎がおどる
傘は雨をあつめ
亀もうらがえる
ひざをかかえた老人が
ぴくりともしない浮子のゆくてを凝視している
このながれの裡にながれを証すところまで
私たちのうち誰かが
いちどでも触れれば
なにもかもが沈むみなそこの世界へ

(息ふけば
 雲はすこしおおめに動くと信じていた)
(赤いふうせんも
 やがて世界を一周してくるものだと)

ひとはいつか石をつみおわり
抑えきれないながい手をのばす
にじみ湧くみなもとの尖で
きざす甘美な突起と穴たちと裂けめ

水ははじめにのろいやがていのる
からだふかく波うつ
石をなげるたび波紋する








自由詩 矢部川 借景 Copyright soft_machine 2016-09-07 12:18:19
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