君の部屋
葉月 祐

君はその眼鏡をいつ外すのだろう
かれこれ二時間は待っているだろうか
テーブルの上では
二杯目のアイスティーの氷が
きしむ様に鳴いている

たまに休日が重なれば
やっぱり一緒に過ごしたい
一日の内のほんの数時間で良いから
その貴重な時間を
共有したいなと思うのです

ストローでグラスをかき回すと
カラカラと涼しげな音が響きわたる
角を無くした氷 汗をかき始めたグラス
アイスティーを一口飲む間にも
君は本を読み進めているから


  私がいる事 忘れてないよね、と
  言いたがるこの口は
  ストローをきゅっと噛み 先に塞いだ


時間も気にしない程 本に夢中な君に
夢中になっている 私は
その本が閉じられるのを待ちながら
この部屋の中の日だまりに
溶けてしまいそう

グラスの中の氷は
琥珀色の液体の中に隠れて
アイスティーは だんまりしたまま 
飲み物としての役目を終えた

風は涼しくなったけれど
太陽の光はまだ「ここにいますよ」と
無言で主張しているかの様で
窓から降り注ぐ午後の陽射しは
部屋の匂いを強くしていく

  私の心をくすぐり続ける
  君の部屋にも 秋の気配


ところで私は こうして君を待つ度に
この空間が好きだなと よく思う
君がいて 君の好きな本の匂いがして
窓から降る真昼の光や 季節の風も
何もかもが特別に感じられる場所だから

君がいつもくつろいでいる
この部屋の中には いつも
私の好きな幸せの匂いが満ちています

  ここにいるだけで 私は、とても―――・・

まどろみかけた私の向かいで
パタンと本をたたむ音がした
頑張ってそちらを見れば
眼鏡を外した君が
微笑みのサインをこちらに送っている

まだ少し眠たい私は
まぶたを擦りながら
そのサインを受け取り
微笑み返しながら
のそのそと 君の元へと向かう



やっぱり 幸せの匂いがする






自由詩 君の部屋 Copyright 葉月 祐 2016-09-03 21:59:13
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