山荘にて
ヒヤシンス


 気が付けば四人で過ごす秋が来た。
 まだ早すぎる落ち葉が山荘までの道に降り積もり
 我らの道を優しくふさいでいる。
 後ろには我らの足跡が刻まれている。
 
 山荘に入ると、未だ夏の残り香がそこいら中に立ち込めている。
 窓を開け放つと秋風に吹かれそれらは静かに消えていった。
 まずは一杯。熱い珈琲を皆で飲む。気持ちが大らかになる。
 久しぶりに揃ったみんなにいつしか緊張は解けてゆく。

 そして自由が訪れる。
 一人はテラスに出て、森の野鳥を聴いている。
 一人は籐椅子に腰かけて本を読む。
 一人は話したくてうずうずしている。
 そして私はこの幸せな空間で夢を描く。

 夜。部屋にはモーツァルトの弦楽四重奏曲が流れている。
 誰かが言う。結局、あの驢馬は幸福だったろうか。
 別の者。それよりあの子さ、あの子の秘密は毛布にくるまれたままだ。
 私。答えなどないんだ。すべては感じるままさ。

 朝。光が希望を運んで来る朝。
 すべては夕景に始まり朝日によって完結する。
 人生は悲しみの連続だが喜びがそれを凌駕する時、
 それは一瞬間の天からの贈り物となる。

 絶頂の瞬間を我らはこの山深い山荘に見た。
 美に導かれ、同じ時を過ごした我らは魂の兄弟となる。
 人間の存在価値を我らは互いの中に再発見し、
 絆は深く、息遣いも朗らかだった。

 冬。山荘を後にする時、窓の隙間から幸せが吹いて来た。
 我らは明日への活力と愛とを手に入れた。
 辛い時こそ朗らかに。悲しい時こそ優しさを。
 四人は再び会うであろう。落ち葉が散り敷くこの山荘で。
 
 
 


自由詩 山荘にて Copyright ヒヤシンス 2016-09-03 06:06:27
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