愚か者の涙
ホロウ・シカエルボク



開き直って、当たり前のことを言う
そんなの詩人のやることじゃない
文法に縛られ、添削に精を出す
そんなの詩人のやることじゃない
奇をてらって、珍妙な改行、記号の羅列
そんなの詩人のやることじゃない
ひとりで生きられないものが
大きな声で誰かの気を引こうとするように
ひとりで書けないやつらが
常套句なイデオロギーにすがりつく
幾重もの無頼派の皮を
丁寧に丁寧に剥いだら
顔を出すのはもやしのような鉛筆だ
「本をたくさん読んで、詩人をたくさん知ってます」と
あるものは言う
「二〇年書いてきました、私の言葉には真実があります」と
あるものは言う
そんなの詩人の言う事じゃない
念を入れ、手を加え、肌の荒れた女が執拗に化粧をするみたいに
粗末な言葉に装飾を施し、後付けを加え
訊かれてもいないのにくだくだと講釈を垂れ流す
ガラス球をダイヤだと言って売る宝石商のようだ
ラッセンのコピー画を高値で売る画廊のようだ
「うちの子だって一生懸命走ったのに」と
PTAが教員に食い下がる運動会のようだ
有志諸君、大事なものはなんなのか理解しているかい
あんたの一番よく出来た詩はいつだってペンネームだ
チントンシャンから教えてもらった
座敷の踊りを舞うように
決めごとだらけの言葉の中で
自家中毒で泡を吹く
どうして、詩が
そこらへんにあるものだけで作ることが出来るのか
ここぞと思った時に
なにもかもぶちまけられるようにそうなったのさ
押しつけは
しないよ
主義、主張なんてさ



時間の
無駄なんだ



自由詩 愚か者の涙 Copyright ホロウ・シカエルボク 2016-08-29 18:16:40
notebook Home 戻る