こわいって呼んだこととか
初谷むい
真夜中にそれは月だよ。グラビアの雑誌から顔あげわたしに気づく
なんもない。なんもないからコンビ二の袋を捨てずに守ってしまう
わたしだけ日焼けをしないこの夏だ twitterでは生きているけど
期限切れのかわいい定期かわいいと言ってくれたらかわいくいるよ
ぴかぴかのカラオケボックス せっくすをするならまひる、と友だちは言う
不可欠ときみが言うから 言ったから ひとりでおなかの海を揺らした
とてもこわい話だ シーツにくるめられ愛と言うならそれは愛だし
きみのとおい射精のことを会議室みたいな夢の中でもおもう
失うことしかできないのならそれははがき、指で書いたら透明な絵だ
ああそれは声だったんだ 出て行くよ ときどききみで絶頂するよ
こわいって呼んだこととか振り向いて困っていたよね どこがあまいの?
端的に言うと性欲のことをかわいがる毎日ではぼくたちの心は全く不可欠でない。ひどく脆いことばの探り合いのことを、にきびを触る程度のやさしさで行っているうちはまだみんな人から生まれたままのこどもだ。あなたを大切だと思うこと。あなたがいないことをさみしくおもうこと。ぼくは性器しか持たない必要悪だから、他人のままに出会ってくれたあなたをほんとうに必要だった。はらはらと、歳をとって卵子が殺されていくこと、一緒に泣いてって言いたかった。ぼくがかわいい女の子なら、ただしくあなたを愛せたのだろうか。あなたが変なあだ名でぼくを呼ぶときにだけ、ぼくの中の海はちいさく震えるのだった。
短歌
こわいって呼んだこととか
Copyright
初谷むい
2016-08-23 00:01:00