ふたつの音
るるりら

【ふたつの音】



毒虫に やられ
全身は はれあがっておりました
つかれきった こころに
毒蛇を漬け込んだ酒をかけると
寝袋の中に身を横たえた私は、
水平さざ波のように 癒えてゆくのでありました

しずむこころは
どうしましょう
みえないこころに
問いかけましょう

月は、知っている
満月は けして裏側を語りませんが
あの日の自転車に 二人の幼子を のせましょう
ひとりはハンドル側に もうひとりは後部の荷台です
道路を横切る 一匹の蛇がいます 
母は 
ふたりを 見捨てて 自転車を飛び降りました

ああ 自転車で ひいてしまいます
がたん 弟のお尻が もちあがりました
ごとん 姉のお尻も 蛇を感じました

二度ひきかれた蛇は きっと毒蛇です 
藪の中にいったのでしようか

「ごらん、そらを」
青いほどの暗がりに
八方を照らしているかのような月の裏
うんの月に身をまかせた ふたりの絶叫
ふたりは、 
ひとつの蛇が ふたつの音になるのを 聞きました

二音となって耳に棲み始めた毒蛇は
いつしか私の薬となりました 

月の
まるみに
うかぶこころ 
二人の子 ひとりは死んで  
もうひとりをとりまく星も夜光虫も
ふるえていいます

あの蛇が
二度の音に変化(へんげ)して、私の胸の中に
棲んでいるのです

 

※詩には作り話が含まれています。


自由詩 ふたつの音 Copyright るるりら 2016-08-20 09:13:34
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