アジと太陽と私
opus

梨沙子はタバコを吸って
吐く
煙がふわっと空に漂う

昨日はゲームのやり過ぎで
目が疲れている
焦点がうまく合わない
何だかイライラするし
スマフォで暇つぶしもしたく無い
だから、
今日は海に来て
釣りをする

釣り針に餌はつけない
魚釣りたくないし
料理できないし
海に漂う浮きを見るだけ
そして、椅子に腰掛けて
星野源のpodcastを聴く

肩を叩かれる
「お嬢ちゃん、何か釣れたかい?」
おじさんに話かけられる
私は首を振って答える
「そうかぁ。
でも、今日は釣りには絶好の日だよ。
おじさん、こんなに取れちゃった

少しあげるよ」
そう言って、
私のバケツにアジを2匹入れた
「はぁ。ありがとうございます。」

梨沙子には
2歳年下の彼氏がいる
ケンゾーと言う
ケンゾーは2年前に
東京に行った
東京の会社に就職した
最初のうちは
頻繁に帰って来たけど
最近はあまり

「浮気とかしてんじゃない?」
親友の祥子がそう言う
「そうかもね。」
否定は出来ないよ
だけどね

耳の中で星野源がshineを歌う

「私はどうしたいんだろう」

空は晴れていて
気持ち良い風が吹く
遠くの砂浜で
サーファーが
波に漂う

星野源がsunを歌う

ふと気が付くと
梨沙子は制服を着ている
目の前にはギターを持った
ケンゾーが
下手くそなSUNを歌う
「下手くそ」
「うるせー」
でも、いつもカラオケで歌う
情熱の薔薇よりは
まだ聞いてられる

あぁ、
そんな事もあったっけ。
そう思いながら
涙がホロリ

祥子にLINEする
「今から家行っていい?」
「いいよ。
今日、宏帰って来ないし、
亜美も喜ぶしね。」
「ありがと。魚持ってくよ。」
「魚?」

梨沙子は伸びをする。
身体に血がめぐる。
気持ちが良い。
「今日は晴れてるんだから。
楽しまなきゃね。」
そう自分に言い聞かせる
梨沙子の顔には
マスカラで2本の線が引かれていた








自由詩 アジと太陽と私 Copyright opus 2016-07-10 15:41:06
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