桃。
梓ゆい

父の死が
私の全てをひっくり返す。

独りぼっちだと悟る孤独感。
繫いでいた手を
後ろに組んでしまった。

横に居た父のことを思い出さぬよう
ぽっけの中に両手を入れたまま迎えたつい昨日

父と一緒に食べたもぎ立ての桃の味と感触を思い出して
三十路を過ぎた身体が
喉が渇いた。腹が減った。と求めるので
片方の手を伸ばして
籠に盛られた大きな桃にかぶりついた。

じゅわっ・・・。じゅわっ・・・。と広がる
甘く懐かしい初夏の味。
どうだ?美味しいか??と
笑って問いかけた父の声がする。





自由詩 桃。 Copyright 梓ゆい 2016-07-04 19:45:38
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