虚構の空白
汰介



ぽおん、ぽおん、と、バスケットボールを畳の上に寝転がりながら、
両手の掌で適度に弾みをつけ、天井に当たらない様に何度も放り投げている。

僕は、何よりもこの空虚な時間が好きだ。

その内に、つい弾みが付き過ぎて、天井にバスケットボールは当たってしまい、
ばん、と、びっくりする様な音を立てたと思ったら、
天井にぶつかった弾みで、落下の勢いが付き、それは僕の目の前に急激に迫ってきた!

とっさの機敏で、すぐ、横に体を転がさなかったならば、
僕の大事な空白の時間は、台無しになっていた事だろう。

僕は、ひやりとした眼差しで、ぽんぽん跳ねるバスケットボールの行方を、見届けていた。
そして、壁に当たって、徐々に跳躍を弱めながら、
足元でついに転がるだけになったのを見届けて、
僕は、足でボールを挟み、その動きを完全に封じ込めた。

「ちくしょう!」
突如、僕は怒りに襲われて、そのボールを足で思い切り蹴飛ばしてしまおうかと思ったが、
止めた。
いくら僕でも、その行為が悲劇を生むであろう事位は熟知している。

しばらくはじっとしていたが、ふと目線を変えると、一冊の詩集があった。
ぱらぱら、とめくってみたが、さっぱり文字は図形以上の意味を僕には与えない。
何度挑戦してみても、詩集の方で僕を拒否している様だ。

こんな良い天気だと言うのに。
ああ、このまま寝てしまおうか。

ああ、こんな時、誰かが尋ねて来てくれれば、僕はそのやる気の無い体を起こして、
旅にでも出るのに。

僕は、そのまま眠りに落ちる。

多分、その見る夢は、僕もはっきりとは覚えていないけど、詩集に描かれた図形が、
その設計をしてくれるんだろうに違いない、と思う。

そして、それはふと関係ない所でその詩集の設計とは気付かず、
思い出されては、忘れ、また思い出されては、忘れていくんだ。




自由詩 虚構の空白 Copyright 汰介 2005-02-26 19:13:58
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