おむすび
もっぷ

終着駅までのすべての往路が足し算の暦なのだと
信じきっていたころも確かにあったことを思い出す
アネモネの蕾をみて安堵したように降りはじめる雪がある
ことはまだ知らなかった
降りつつ、積もる雪でしか洗い終えることのできない
足跡、そしてかなえられるはずの/

 * * *

パトラッシュ!
と声が聞こえる
それが自分の憧憬と
悟っていながら「誰か」
を探すわたし
言葉の主は 軽い手荷物を持った
三つ編み姿の未だ少女なのだと
覚えるように

じつは彼女の鞄のなかには
たくさんの こと が詰まっていた
じつは彼女の髪型は
ざくざくと無造作なおかっぱ頭だった

と、しても

できた話も時には生きるに必要で
やっと「私」を捨てきってそののち
もしや視るべき真実としてただそっと
ひと時は眠らせておくことが
空気のように大切なのだと
訪ねながら云い聞かせて

 * * *

降りはじめた雪は四季を逆に廻り
いつの間にか梅雨となっても
窓の外 ついにやまない
風が薫る暦を越えて
そろそろすでに
花期を迎えたアネモネがみえてくる日に
その汽車の、隣に腰かけていた婦人が
懐かしい、味噌で握った俵むすびを勧めてくれた
もう一度だけでもと願っていた味だとわかっていた
戴いた、思いっきり/泣く



自由詩 おむすび Copyright もっぷ 2016-06-20 16:46:16
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