川辺にて(三篇からなる オムニバス)
るるりら

【黄金の川】

主述の黄金律が 逆さに流れている川が
ランゲルハンス諸島には或る
島では、今日も甘美なインシュリンの雨が降り
下降気流で冷やされた土壌に蜜の匂いが立ち上がっている

島々の周りを囲む海の果ては 高い絶壁で囲まれ、
壁の上を 縦横無尽に
太陽や月や 星々が運行する橋がかかっている
島々の井戸からは たえず清い淡水が湧く

どの島の地下にも 巨大な湖が眠っているのだ

湖水に蓄えられている 一滴は
炎天下で 汗をぬぐうこともせず木を植える青年のひたいから
落ちた珠の汗が一瞬に 蒸発して あたらしく純化され地下に蓄えらた一滴だった
あるときの湖水の一滴は
極悪人がおのれの醜さに 
身を焦がして蒸散した涙の一滴だった

いずれにしろ
はるかかなた海の向こうの出来事は
膵石ラジオでキャッチされ 諸島のすみずみまで伝えられる
この島の人々は 不安になると 情報ばかりに囚われはじめる
みあげれば スコールの上にも 太陽の行路は或るというのに


【普通の川】

光を抱いたまま
ありうべからざる青をひるがえし
一羽の翡翠が 空間を切るように鳴いた
わたしのくちびるに浮かぶ雲をも 裂くような声だった

きのうまでの 日常が思い出せない
とつぜん 光のただなかに 私は居て
うつくしき律動の川辺に
ひとつの ぼくとつな 
わたしがいて

ただただ この世界は うるわしい 
 

【いぶし銀の川】

透明なフランケンが
包帯を脱いでいる
ながいながい包帯を脱いでいる
しだいにシロイ部屋を包帯は埋め尽くし
やっと 瞳だけ表にでてきたが
スケルトンな心明が ソコにあるだけ
まとった布の下には なにもない

つけまつげをつけたフランケンは
書きにくそうにペンを持ち 失談する


 ワタシアナタノコト スキデスカラ 
 ワタシ アナタガ イナイト カラカラニ乾キマスカラ 
 コトバナンテ 誤解ヲ ウムバカリデスカラ 
 シャベレナクテモ カマイマセン

 カラダナンテ ホントウハ イリマセンデシタカラ
 ソレデモ マスカラヲ ツケルノハ
 アナタニ ワタシガ アナタヲ見テイルコトヲ シラセルタメデスカラ

 アナタハ デーモン ニモ ニテマスカラ
 アナタハ レモンミタイニ ツメタイ人デスカラ
 デモ デーモンでは 無いデスカラ
 孤立なんてさせない


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しりとりスレッド参加作品です。
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自由詩 川辺にて(三篇からなる オムニバス) Copyright るるりら 2016-06-10 10:38:43
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