駅前の雨(改訂)
ひだかたけし
細かい雨が降り続くなか
最寄り駅前のロータリーに着くと
くるくる廻るビニール傘
黄色い小さな長靴履いた
三歳くらいの女の子が
くりくりまぁるい目をキョロキョロさせ立ち止まっていて
通りかけた僕が思わず笑いかけると
ニッコリ笑いを返し隣の母親を見上げた
三歳の娘を専業主夫をして育て溺愛してた頃
友人の女性が言っていたことを
僕はふと思い出した
く
「三歳のまりちゃんは二度と戻って来ないんだから今を大切にするんだよ、今あなたは三歳のまりちゃんと居るのよ」
パパ、という声にハッとする
振り向くとさっきの女の子が
すぐ傍に横付けされた車窓に手を振っている
俺は今いったいどこにいるのだろう?
僕は混乱して立ち止まる
人はいつも神と共にあるんだよ、牧師の友人はそう言っていた
僕はその言葉を思い出し怒りが込み上げてきた
愛する人、愛情を注ぐ人と共に居るからこそ神は在るのだ
単なる観念ではないカミが
女の子は母親と共に鮮やかな青の車に乗り
アイドリングしていた車はすぐ発進した
もう二度とあの女の子のニッコリ笑いを体験できないだろう
もう二度と愛娘の息遣いを温もりを体験することはないだろう
(「パパと好きな時に会えるなら」という娘の条件付きで一昨年離婚し、それが元妻に強制的に何処かに連れ去られた高校3年の今の彼女は何を思っているのだろう?)
今は自分が何処にいるのか、まるで実感できない
んだ
あの時の女友達に僕は心の中でそう呟く