夢見ぬ人
ただのみきや

ある日夢を見た
大統領専用機をハイジャックして
銀翼のブーメランは肥えた豚の脇腹をえぐる
全ての核が夜明けのように地球を照らし
先史時代の遺跡に月が冷たく口付ける
砂場で遊ぶこどもの和毛が音もなく揺れていた
夢から覚めたある日
破れたカーテンの隙間から見た
機銃が細切れにする
歌いたかった声
笑いたかった頬
触れたがりの指先
抱擁を求める胸の鼓動
生暖かく飛び散った
冷たすぎるロックンロールの炸裂音と
鉄の味がするペンキ芸術は即興を競い合い
額に咲いた花のように
夢より儚い夢のように
ある日目覚めることをやめた
こどもたちは夢の中
眠ることもしないで遊んでいる
誰かが筆を折る
言葉は銃弾に作用しない
言葉は心に作用する
言葉が無力なのではなかった
人があまりに無力だった
そうして目を瞑る
眠ることもしないまま
夢より深く落ちて往き やがて
暗闇の門口に立った
待っている者は誰もいなかった
――ようこそ
そう自分へ呟くしかなかった



             《夢見ぬ人:2016年6月4日》








自由詩 夢見ぬ人 Copyright ただのみきや 2016-06-04 16:47:19
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