もと居たところ(ゴル投稿長考版)
高橋良幸

「生きている」
 この世界に

「生きていた」
 あの世界に

ああ
なつかしいな
西暦があった世界の2000年頃に
わたしのバリエーションが詩を書いていた
おそらくそんな世界があった
それは確率論から導かれるお話だ
どこかの国の暦
惑星が周回する単位
だれかが数え始めた自然数
それらの存在を掛け合わせた世界
それをなつかしむわたしがいる世界

わたしはわたしの存在確率が0に漸近する中
生きてきた
わたしのバリエーションは皆
死んでしまった
人間が2人生きている確率は人間が
1人生きている確率よりも
ずっと低い
そんな事情で
次のインフレーションを待つまでの間
もはやわたしはひとりでいるしかなかった

わたしが最後をつとめる宇宙の時間は
わたしにとって、長い時間だ
独学で多世界の精神を統合する術も学んだ
遠い世界の記憶は曖昧で
とはいえいろんな場所にわたしは居た
独居房では幻覚を見るのだという
そんな世界もあった
それでもわたしはわたしの知れることしか知れなかったな
そう思うと宇宙の時間は長いようで短かった
他の誰かはこの極限の時間で
他の宇宙に住んでいるのだろうな、ひとりで
夢でいいから会えないだろうか
(会ったかもしれない)
会ったかもしれないな
ああ
なつかしいな
あの新緑のにおいがあった頃って


自由詩 もと居たところ(ゴル投稿長考版) Copyright 高橋良幸 2016-05-28 19:14:16
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