耳の背中
あおい満月

喉を鳴らす度に、
耳に響く痛みがある。
痛みには海がある。
耳の背中で、
波音が聴こえる。

鏡がある。
鏡には本当の姿は映らない。
いつもぼやけているこの顔には、
よろこびよりもかなしみがあふれる。
微笑んだ目の下には黒い月がおよぐ。
鏡を、
みがいてもみがいても、
真実は霧のなかに消える。

手のひらのなかに、
水が生まれて、
あらゆるものの、
内面世界の争いを鎮めていく。
滴る水のなかに映るものは、
争いの果てに死骸と化した、
金魚たちで。
わずかな口もとから、
浮かび上がる気泡は、
自分たちが生きていたという、
証を叫ぶ最期の息吹き。

空と海がかさなる。
新しい時間が生まれて歩きだす。



自由詩 耳の背中 Copyright あおい満月 2016-05-22 20:03:54
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