窓の足
あおい満月

葉になった記憶を、
私の歯が噛み砕いていく。
じゅわり液体になった思い出たちが、
苦い匂いを響かせて、
鼻孔に絡みつく。
思い出たちは雨になって、
見えない窓にふりそそぐ。

*

外へ出ると、
雨が降っている。
霧が立ち込めた下界は、
植物特有の苦く酸っぱい匂いを纏い、
風に絡みつく。
傘をさす肩は、
右側が乾いていて、
左側がぐっしょり濡れて、
風の一部になっている。
ブランコが一人、
揺れている。
草いきれに、
見えない窓が、
開いていく。

**

開かれた窓から、
もうひとつの窓に繋がる道がある。
窓は連鎖を繰り返して、
目に映るすべての世界の窓を、
開いていく。
次々と開いていく窓の足に、
恐怖さえ感じる。
窓には終わりはなくて、
開く手さえ途切れなければ、
窓は存在し続ける。

まばたきをした瞬間に、
世界はもう開かれている。


自由詩 窓の足 Copyright あおい満月 2016-05-18 22:47:29
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