03.自分のこと
塗絵 優作

僕自身、嫉妬のような醜い感情は持ち合わせていません、
と、言いたいわけではないのです、決して。

それどころか、嫉妬が醜いともいけないとも思っていません。

さて、そういった弁解も込めて、自分の話を出してみます。
ふたつの話を出します。ふたつとも、まあ、実話です。

1.
 父親が死にました。若くに死にましたが、前日まで仕事をしていて
 寝たきり介護とは無縁、まさにぽっくりというやつです。
 それでいて、葬式費用は、すぐに出せるようにと息子名義で別に
 お金を残しておく周到さ。通帳や保険証書など、必要なものは
 ひとまとめにしてあり、担当者の名前や連絡先のメモも一緒に
 なっていました。

 僕は、喪主でしたが、葬儀の間中も、ずっと、
 「こんなふうに誰にも迷惑をかけずに死ねたらいいな」と
 嫉妬しているばかりでした。

2.
 メイド喫茶に行きました。
 今どきは、もう十年もメイドをしている子が普通にいます。
 さすがに年は隠せませんが、気が利くかわいい子です。
 メイド喫茶でどうしてこんな話になったのか覚えていませんが、
 「親が実家に帰ってこいと言っている」
 「一人暮らしのまま、離れを建ててやってもいい、と」
 「でも、あたしはこの仕事が好きだし、大須が好きだから」
 「でもお金は無いけどね、あはは」
 他愛無い会話ですが、好きなことをやって生きている人には嫉妬します。
 そういえば、確かこのサイトを十年ほど前に開いたのも、そんな嫉妬が
 きっかけだったような気がします。

 あ、ちなみに、大須というのは地方都市にある、秋葉原と原宿と巣鴨を
 くっつけて小さくしたような街です。

この二つの違いに気づきましたか。父の死に様は真似したくてもできません、
多分。自分ができないことへの嫉妬です。お金持ちへの嫉妬はこれに属すると
思います。

メイド喫茶の話は、少し違います。物理的に、会社を辞め、好きなことを
することは可能です。ただ、その決断ができないだけです。

本当の意味で、嫉妬というものがどちらなのかと言うと、僕は後者では無いか
と思うのです。何か自分が諦めたものへの嫉妬。言い換えれば、すべてを
投げうって自分のすきなように生きられないことへの嫌悪。
これって、人間の、社会の中で生きていくうえでの、業のようなものだと
思えてきます。

どうも、僕は、この感情が好きなのです。この人間らしさが好きで好きで
たまらないのです。自分だろうと他人だろうとこの感情を抱いているすべての
人が愛おしくてしかたないのです。

ここまできてやっと、ですが、たぶんこの感情が、僕にとってのテーマなんだと
見えてきたような気がします。

さて、書いてみますか。







 






散文(批評随筆小説等) 03.自分のこと Copyright 塗絵 優作 2016-05-14 22:17:16
notebook Home 戻る