トゥリャ・トゥリャ
ただのみきや

月曜日
連なるうろこ雲
蟻から見れば雲突く大男が
注がれたばかりの朝を濁す
休日に書き残したカタコト
浴び続けた音の粉末を
明け方の夢の切れ切れと一緒くた
焼却炉みたいに燻らせながら
雲の上から見下ろせば
蚤にも満たない
男が一人


火曜日
開きかけた桜の下
そよ風よりも視線にわかに
ちょっかいをだす
鳥の独白 装う告発
細く長く静寂を裂いて
遠く 車が唸る
耳は洞窟の涼しさで
色もなく
揺れもしない
コップの水のように
ささやかにイメージを屈折させて


水曜日
白樺は風の腕しなやかに
身を任せ
魔女は火炙りになる
立ちのぼる灰ゐろの観念
像を得ようと泥濘を渡る
いま雲雀の声にめまいして
言葉は死者にふさわしい
生者よ 語るな 戦げ
なにごとも代償は必須
見開くなら
欹てるなら


木曜日
風は体現する
居場所を離れられない者の心は
遠く異国の街を彷徨い
旅人の心にはいつも
故郷への扉が開いている
埃と光に湧き立つ髪は
夜には河のように渦巻き流れ 
眼差しは井戸で冷やされた葡萄
しずくを纏い輝いて
挑むように
誘うように
故郷でも目的地でもない
曖昧な匂いを追いかける
旅のような日々


金曜日
くもりガラスの向こう
シャツを脱いだ女
生への温度差が肌をつたう
蝸牛の寡黙な巡礼
宅急便が踏みつける
冷たくなったマルハナバチ
なにを見つめても
見つめ通せはしない
崩れる家
溶ける自画像
一片の熾火のように
時折 爆ぜ 
雨 いつまで


土曜日
黄金週間
峠に雪が降る
足場の上の作業員に
風が重たくまとわりつく
働かざる者食うべからずか
食わねばならぬか生きるためには
生きるというならやむを得ないか
弄られながら散りもせず
咲いて間もない花びらの
しずく飛ばされて
頬に冷たく


日曜日
電話で起きる
光の中で見つけてしまう
息苦しさ 鐘のような沈黙
深い海から上がってきた
闇を吐き戻し
白いけむりの羽根が舞う 
――ほんの数分
皮膚を硬くして
歩行を始める
沸騰したら六分半
手中の卵のざらついた白さ
夢のなにかと 
符合して



      《トゥリャ・トゥリャ:2016年5月1日》










自由詩 トゥリャ・トゥリャ Copyright ただのみきや 2016-05-14 21:03:24
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