桜水食堂
レタス

黒い大蛇が棲むという石橋を渡れば
桜咲く岸辺に
そこには大衆食堂が在った
憶えているお品書は
カツ丼
カレーライス
精進揚げ定食に
銀だらの照焼くらいのものだ

砂利道を挟んで
タイサンボクの薫る洋館があり
白髪のおばあさんが怖かった

夕方になると
食堂の姉様が白熱灯のスイッチを引き
白く大きな羽根の蛾が集まってくる

母が大病を得て
必死に働く父の背中が懐かしい

遠足や運動会の弁当は
食堂の親爺さんが作ってくれた
美味しい
美味しい
おにぎりと銀だらの照焼に出汁巻き玉子

ぼくたち兄弟と姉妹は
近所の人々に守られ
生きてきた

いま

涙が止まらない






自由詩 桜水食堂 Copyright レタス 2016-05-09 18:44:36
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