春小景
ただのみきや

見えなかったものが見える
ふくらんで
ふくらんでほどけ
ふわり ひらく
ゐろかおりかたちあまく
風に光にとけて
そらを渡るもの
ほそい弦で触れながら
匂やかなうたの足跡をたどる
もえるいのちの木へ
たどり着いた
はじめのひとりは
すべてを記憶する
ゐろ 大きさ 方角も
太陽の位置
旅立った街
心によろこびの
よろこびの大きさを描いた
地図を抱いて
女は帰る
風と光の道を
からみあう死の網を越えて
すばしっこいものごし
まっすぐに門をくぐり抜け
働く姉妹たちの
真中に降り立って
よろこび踊る
腰をふりながら回る回る

 「わたしは見つけた
 いのちの木を
 あまく匂やかに花は満ち
 甘露あふれるところ
 わたしは道を示す
 わたしに続け
 わたしい続け
 来なさい姉妹たち
 わたしに連なり
 踊りなさい―― 」

踊りは地図
踊りは道
距離が方角が
ゐろが匂いが
よろこびの大きさが伝達される
姉妹たちはこぞって飛び立つ
花と蜜たわわにまとう
いのちの木へ
春のうた
触覚で震えながら



        《春小景:2016年4月16日》










自由詩 春小景 Copyright ただのみきや 2016-04-16 20:32:34
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