缶詰
あおい満月

視界にはたくさんの目がある。
開いた画面に浮かぶ目玉は、
口になって牙を剥き出している。
口になった牙を生やした目玉が
私の目を喰らおうとする。

瞬きひとつでページをかえると、
今度は手になった耳が、
くしゃくしゃになった鍵盤を弾いている
手になった耳の鋭い爪が、
私の聴覚を撹拌する。
かき混ぜられた三半規管に散らばる。
聴こえぬ音たちの足跡。

鏡台を開くと、
指になった髪たちが、
からからからから、
あや取りをしている。
指になった髪たちは、
切れてはまたその枝先から現れて、
蟹のようにハサミで会話をする。
目覚めた朝の祭りの後は、
まるで蟹たちが散ったかのように、
細かい残骸が四方に散らばっている。

缶詰を開けると、
思考の切れ端が、
異臭を放ちながら飛び出してくる。
蛸の足のような切れ端たちは、
噛み砕けば噛み砕くほど、
深い味がして、いつしか私は、
眠り込む。



自由詩 缶詰 Copyright あおい満月 2016-04-15 09:07:05
notebook Home 戻る