新しい街
葉leaf

新しい街には風が吹いていた
壊れた楽器の音のように
太った空間の波がはためいていた
誰かが瞬きをするその眼の湿り気
この風の湿り気はそれと何ら異ならない
異郷と故郷の間に区別はあるか
異郷と故郷はいつでも交差していて
同じ光の分光の違いに過ぎない
新しい街の人々も装いもみな親しい
僕らは初めからみんな仲間だった
つぶさに落ちていく苦しみの記憶
風景の中にひらめくかなしみの色
渦を巻いているのは街の構造だけで
渦をさらに乱すために自転車をこぐ
海に近いこの街はすでに海であって
職場に近いこの家もすでに職場であって
誰も待たないし誰からも待たれていなくて
待つことは当然に誤差の範囲内
どんな乖離も誤差の範囲に入るため
もはやすべてが正しく親しく近しい
新しい街はきわめて旧かった


自由詩 新しい街 Copyright 葉leaf 2016-04-14 05:37:02
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