病棟幻想
レタス

病棟の廊下を行き交う
光を亡くしたオブジェたちは
意味のない言葉を呟きながら
閉ざされた空間を彷徨っていた

秒針の動きに従い
その営みは飽くことなく続けられる

影さえ失った彼らは
味覚という旋律を享受する事を忘れ
色彩と質量の無い食事を貪り
鋭い監視のもとに薬剤を投与される

残された自由はベッドに横たわり
錯綜する過去の夢を繰り返すだけだった

6時の起床に整列し
睡眠時間と尿と排便回数を報告させられ
朝の陽ざしに照らされた回廊を
食堂へと連行されてゆく
ストップウォッチを握った看護師の視線のもとに
冷めた飯と味噌汁と少しのおかずを流し込み
白いベッドに回帰する

家族や友人のいない彼らの日常はとても静かで
外界には無い平穏が訪れる
あの空間は何だったのか
今は想い出すこともできない




自由詩 病棟幻想 Copyright レタス 2016-04-03 00:11:50
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