土人
ただのみきや

生神の鍬に
ぬっくり耕され
おれは畑になった
ねじ切られた灌木の陰茎に
スズランテープが引っかかって
女の声みたいに風がふざけている
ムクドリ毛虫食え
ミミズ食うな
おれはミミズの糞を喰らって肥えるが
根っこに吸われて貧血なんだ
酸っぱい陽炎がヘラヘラして
石ころを隠し持ったまま
蚊柱が立っている
黒々として冷たい
カエルの奴め何を食うやら
野菜のムンムンした精が
おれの中に浸透する
太い根っこに掘られ続け
ぬめるなめくじのあじがした
覚醒する秋


死神の鎌に
ざっくり刈られ
おれは裸になった
掘り返された墓を
土竜たちが馬鹿にしている
腐臭が漂う
肉体から
愛人を
引き抜かれ
刈り取られ
毟られ
散らされ
晒されて
乾かされ
集められ
火葬にされて
空の大口に吸いこまれて往った
すべてを喪失したのだ
おれが死んだのか
死は眠りか
眠るが勝ちか
価値は不可知か
コオロギは誰の首を齧ったか
冷たい月が背に刺さり
割れた額に氷が張る頃
やがてみんな嘘になる
誰も責任を取る者はいなかった
タントラチックに交合して
一つになった生死神は
干からびた記号に過ぎない
モヘンジョダロあたりの石ころだった


おれは砂漠になった
砂漠の人魚が
翡翠の鱗で春を売っていた
男たちを喰らう鈴の音に魅入られ
おれは笛を吹き
扉のある背中をなぞる
ひどく馬の足の筋を切る日だ
ひどく夜が崩落し
蒼白い夢に住む夢魔の尻が念写される
おまえは死神を鍋で煮る
しろい湯気に溺れながら
生神の肝をしゃぶっているのか
遠い里の暗黙の壺の中で
目覚めない
ひどく眠れない朝に
乾いた音が喉を渡る
もやは廃屋だ
かつて
おれは畑だった
おれはおれを見い出さず
ただ雀が落ちてくる
沸騰した眼のすり鉢に
うわ言のように
落ちてくる
かつて人だった誰かが
青大将がすり抜ける際の乱反射を掴み損ねたのだ
二十二口径ピストルの即興劇の
軽すぎるオノマトペだ
案山子が書く詩が隠す死が
巻き戻されて
かき氷で甘く冷やされる
両手に満たした黒い土
おれはおれに
種をそっと手渡した
古い夏が滾るように精神を流失させる
ミミズは見ず
カエルは帰らず
骨の光る音が耳を消すころに







             《土人:2016年3月29日》










自由詩 土人 Copyright ただのみきや 2016-03-30 22:03:15
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