為平 澪

母の頬を打つ
鋭い音が私の底に弾けて沈む
窓から漏れる灯が全て真っ赤に爆ぜる
影絵が暴れ出す
玄関口を喪服の村人がぞろぞろ出て行く
四角いお供え物に母の骨を携えて

母の頬を打つ音が隣の家に着火し
老夫婦はもう家に帰れなくなった
また、喪服の村人がぞろぞろと夜の玄関先渡って行く
四角いお供え物から、ピシャリ、という音が聞こえないように
大きな風呂敷袋にぐるぐる巻きにされた、その箱の底から血が滴っている
─あれが生首です。
影絵の物語はいつもそんな風に幕を閉じた

              ※

私が赤ちゃんを叩き殺した理由ですか
私わたしが赦せなかったのです。私は母からすれば良い子ではなかった。
昔から母によく叩かれた。だから私はわたしが子供を産んだら良い子になる
ように赤ちゃんの頃から叩いて育てようとしたんです。悪いことが出来ないよ
うに。一つ叩いても泣きやまない。二つ叩いても泣きやまない。赤く膨れて
泣きやまない可愛そうな私の・・・「私」、え、何か言いましたか?今、何か
大切な・・、え、ノイローゼ?はい。そうでした。でも、ノイローゼって何で
すか?
─赤ちゃんを叩くと喚くんです。私も痛かったのに、私も叩かれたのに、どう
して私はそんな幼子を殺さなければならなかったのかしら・・・。あんなにも、
助けて!って泣いていたのに。誰が、泣いていたのかしら?おかしいわね・・。
本当に・・・。オカシイ?
眠れないんです。え、目が覚めてないだけですって?じゃあ・・これは夢?
本当に・・・?
そう、夢だったの、ね、夢・・・。ああ、怖い夢・・・!
ほんとうに、ホントウニ・・・?
   

              ※

ピシャリ、
玄関を閉めきった家に炎が住む
母の頬を打つ子の影と赤子を殺める母の手が燃えている
村人は炎を光と間違えて、灯を求めてやってくる
「飛んで火にいる夏の虫」とは、どちらが先に言ったのだろう/逝ったのだろう

              ※

あの家には鰯の頭も、無かったのかねえ・・・。
私の焼死体を見ながら通り過ぎるランドセルに手を繋ぐ母親

                      /鬼は、 外。

              ※

ピシャリ、
鋭い牙をした思い出が死んだ私の腸から出てきた
(お母さん、ごめんなさい、ごめんなさい!
(もっと、ちゃんと、甘えたかったのに・・・!
(オカアサン!!
    
                      /鬼は、、、「 」。




自由詩Copyright 為平 澪 2016-03-21 22:14:50
notebook Home