虚ろ
智鶴

雨の日の多い季節が
私の息まで洗い流してしまったようで
岸辺の向こうで手を振る影は
何処か切なそうに見えるのです
まるで昨夜の夢みたいに
幸せだった幻みたいに

頭痛と並べた白い朝
ソファの上で息をしないまま
綺麗な水で手を洗うことを考えていた
毎日の憂鬱が泥みたいに乾いて濁るから
目を開けるのも億劫で
もう辞めてしまいたいと呟いた

外は晴れた雨で満たされているようで
掌に握りこまれていた泥を捨てて
私は腫れた目を虚ろにこじ開けた
まだ夕闇と
崩れ落ちた夢が名残惜しい
昨日からずっと
その前からずっと
産まれて来れなかった気がする

私はきっと臆病で
何処かの洞窟に隠れているのです
溜息が泡になって消えていく
外はこんなにも怖ろしい事ばかり
私はずっと独房で
世界も自分も否定して
甘えてみたいと呟いていただけ

そんな浮ついた夜明け
誰かに大切にされる夢でも見ていたのでしょうか
掌には泥の塊
起き上がれなくなることを
私の澱んだ心は僅かでも望んでいます

此処で崩れていいのなら
此処から逃げていいのなら
それだけ優しく呟いて
雨で世界が歪むから
此処では息が苦しいのです


自由詩 虚ろ Copyright 智鶴 2016-03-21 16:51:53
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