ひとつ 羽音
木立 悟






空を渡る種の帯の下
あなたは何故暗い笑みを浮かべているのか
原のなかで
明るい風のなかで


無数の角と無数の羽が争い
多くが失われ多くが生まれた
双つの光が向かい合い微笑み
必要な暗がりさえ消し去った


道の中央にある
倒れかけた鉄塔を
窓の無い倉庫を
鳥は 触れるように飛び越えてゆく


砂に埋もれた艦から
何かが発信されつづけている
曇の未明の川岸を
光の霧が光の霧に描いてゆく


無限と万能の争いのなかから
あなたは哀しみと羽を選んだ
あなたはむらさきと
ひとつの角を選んだ


窓の無い倉庫の暗闇の内に
どこからか入り込んだ光が
埃の円柱のように回っていて
誰かがそれを見つめていた
ずっとずっと 見つめていた


語り部は野を通りすぎ
草に沈んだ径に迷う
過去への鍵を樹の下に埋め
咲く花を標に歩き出す


まばたきの幻の幾つかを
こぼれるままにこぼしながら
青を渡る白を見つめ
あなたは原にたたずんでいる


























自由詩 ひとつ 羽音 Copyright 木立 悟 2016-03-18 09:08:47
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