喫茶店
ヒヤシンス

 ランプスポットに明かりが灯る頃、
 私は常連客に珈琲を淹れていた。
 柔らかな音楽が流れ、
 店内は優しい暖色に包まれていた。

 お客の一人は英字新聞を何かに切り張りしていた。
 他の一人は私を睨むと煙草を吸いながら唾を吐いた。
 マスターはレジ横の椅子でうたた寝をしていた。
 私はただ自分で淹れた珈琲を飲んでいた。

 一人の男が店内に入ってきた。
 足はふらつき、目は変に据わっていた。
 次の瞬間、男はいきなりわめき散らした。
 切り張り男は驚いて目を見張った。
 唾吐き男は再び唾を吐いた。
 マスターは薄目を開けた。
 私はただ珈琲を淹れていた。

 散々わめくとその男はよろよろしながら店を出て行った。
 切り張り男は再び夢中になって切り張り始めた。
 唾吐き男は相変わらず唾を吐きながら会計を済ませ出て行った。
 マスターは無愛想に金を受け取ると再びうたた寝をした。
 私は自分で淹れた珈琲をまた飲んだ。

 午前三時、切り張り男は満足げに店を出て行った。
 変な常連客を見送ったマスターは煙草を吸いながらレジで金を数えていた。
 私は自分とマスターの珈琲を淹れた。
 私はお金が無かったので、仕方なく安い煙草を吸った。
 
 店にはいつしか古いジャズが流れていた。
 暖色に包まれた店内で、マスターと二人、珈琲を飲み、煙草を吸った。
 真夜中に営業している喫茶店の話。
 ただそれだけである。


自由詩 喫茶店 Copyright ヒヤシンス 2016-03-12 03:35:42
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