@mail (生体反応の設計)
乾 加津也








外が言う聖域なき改革に
少し笑ってから
だれにも教えるつもりのない
ひとつのメールアドレスを
登録して機能させる
(そこはサイバーエリア)
(そこは賃貸住宅)

行く
わたしが自らの意思を曲げなければ
決してだれも訪れないはず
すなわち聖域
人影のない
ひとりの居心地は
こころの国の
こころの首都といえる
こころの首都には
透きとおるわたしたちが働き
透きとおるわたしたちが納税する
また少し笑う







まずはソファ
部屋の中の様子をひととおり眺める
空白以外のゆらめきは追わない
時間になじんできたら
ゆっくりとキッチンに近づく
立ちのぼる
湯気の先から消えてゆく
珈琲はないだろうか
テレビも窓もない いや 見上げれば
高い天井に細長い検索窓がある
文字カーソルがしずかに明滅している

入力を待っている







小学生の夏休みに来た朝の駐車場は
ラジオ体操の集合場所
たくさんの律儀な深呼吸が
とても浅い
わたしはみんなになれるだろうか
首に吊るすカードに
大人の押す認印の数が増えていく
朱肉がわたしを
みんなのわたしに変えていく







目を凝らして
天井の検索窓を
もう一度見る
経緯度直下で十字を打つ
脳の
この無法地帯のアドレスから
キーボードを引き出し
moも kuく teて kiき
と打つ







コミュニケーションには
正しくはコミュニケーションツールには
壁も
門も
ブレも
認証番号もあるようだ
読まれているようで実はだれも読んではいない
リードで繋ぐ新聞紙がある
頬でコンクリートの冷たさを知りたい
のに
女のヒールの痛みを感じたい
のに
デザインを遂げた塗料(インク)から
見当違いの出来事をひっきりなしにしゃべりまくる
しゃべりの数だけ新聞紙になれる(と信じている)







もう六時
外で刻々と移りゆくのは
光 と 影
立憲主義は教育を促す
雌鶏に集う雛たちは
等しく足し算を学習する
その教室にヘビが侵入?
ニュースメールも届かない
およそ五十年の賃貸
こころのために
セールスコピーを考えた
あなた以外の
だれにも知られないお部屋です


自由詩 @mail (生体反応の設計) Copyright 乾 加津也 2016-03-03 18:55:53
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