夕暮れ
乾 加津也

くずれた均衡
その静かな吸引力に
はく奪されるわたしたちの人格
キュビズムから滅びの兆しを嗅ぎとる、影の
わたしたちが歩く
男女の別なく
客も、客引きも
リードの犬と同じく
たっぷりしたたるゼリーにも似て
改札口をひたすら歩く

夕暮れは
夕暮れに向きあい全霊で筆を躍らせる画家を赦さないだろう
おまえは立ち止まるな
円瑞で滝となって落ちつづける
象の頭の海を描け
母の疲れから生まれたわたしたちの
無心の遊びはどこへ行った
(わたしたちに仕組まれた夕暮れの成分が
            夕暮れの母体に呼応する)
リクエスト
リクエスト
秘匿こそが夕暮れの構造
疲労の胎盤は閉ざされたまま
ただ
どろりと温かなスープ一杯の覚醒に
わたしたちは伏し拝む

このままベッドに横たわる共有
ことなかれにさえ
テロリズムの休息の
赤い、味わいが広がる
捕虜たちも
捕虜を収容するわたしたちも見る
かけがえのない幻想


自由詩 夕暮れ Copyright 乾 加津也 2016-02-19 18:54:01
notebook Home 戻る  過去 未来