ほつれ
春日線香

あんなに大事だった針を
谷底に落としてしまったせいで
かかとからほつれた赤い糸が
林間をくねくねと絡まっている
まるで血管を張り巡らせたかのごとくに
山の中をうろつき
あるいは全体を火事のように覆い
そして今、すっかりほどけた身体で
わたしはもうどこにもいない
強い風がびょうびょうと吹きすさぶ
木々は一斉に頭を振る
はるか彼方、陽の光をきらめかせて
静かに海が流れている


自由詩 ほつれ Copyright 春日線香 2016-02-22 20:14:31
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