あおい満月

覚えている。
私がまだ幼かった頃の、
あなたはいつも、
降り続く雨と闘っていた。
雨は黒い石を含みながら、
あなたの肩を濡らした。
まだ幼かった私はただ、
呆然とその姿を眺めていたけれど。

あなたはどんな小さな悪も、
赦そうとはしなかった。
いつだったか、
テレビで北海道のアイヌの人たちが
前後40年以上経ったあの当時でさえ
未だに差別に遭っているという報道を
目の当たりにした時だ、
小学四年生ぐらいだった私の口から、
林檎の欠片が落ちるように、
思わず「アイヌだって、お母さん 」
と口にした瞬間、
あなたから言葉の一撃が飛んできた。
「差別しちゃいけないよ!」
あなたの目は火花のように
血走っていた。

あれは忘れもしない、
私が中一の初夏のある日、
足の悪い私を過剰に心配した、
私の担任の女教師が私の家に
訪問してきた日、

「このままではHさんの将来が心配です。どう対処したらいいのか」

その発言にあなたは毅然と、

「対処するしないの問題じゃないでしょうが!
あの子の将来はあの子のものです。あの子が決めます 」

あなたの言葉に女教師は、
泣きながら帰っていったのを覚えている。

そう、
あなたはいつだって闘ってきた。
今年の春に、
あなたは齢六八の誕生日を迎える。
今ではあなたの目は殆んど見えない。
それでもあなたは今でも闘い続けている。
自身の生活に向けて。

今度は私が今、
社会の風に向かっている。
東京のビル風は冷たい。
私も雨を受けながら、
壊れた傘を手に突き進む。


自由詩Copyright あおい満月 2016-01-17 00:12:53
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