梢が春となる頃に (「すみれ」習作として)
もっぷ

私は一篇の詩になりたい
それはたとえば路傍の風景

私は何も語りたくない
私としてのさびしさなど

私は私でありたくない
私にとって 私でありたい

私にどうして姿があるのか
多分に偶然でしかない

ひとであるより石ころや
あるいは風を頼りとする花

水平線を目指して飛んで
負傷し砂にいだかれる渡り

すでに郷など忘れてしまった
四季にみかける鴎のような

そういうふうな在り方に
惹かれてやまないこの夜にも、

雪の降らない南の海で
雪に焦がれる人魚のように

初めてもらったクレヨンを
食べてしまいたいこどものように

遡上のあとにも命ありたい
鮎の懸命な祈りのように

橋の下に居る自分の訳を
雀に問いたい赤子のように

名乗らぬ町のささやかな庭で
梢が春となる頃に

私は言葉を喪って 一篇の詩になりたい



自由詩 梢が春となる頃に (「すみれ」習作として) Copyright もっぷ 2016-01-11 07:42:58
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