そろばん屋
春日線香

そろばん屋の戸をくぐる
奥に小さな番台が設けられていて
主人がそろばんを弾いている
わたしがそろばんを見に来た旨を告げると
主人は顔も上げずに
今時そろばんでもないでしょう
とぶっきらぼうに言う
そう言われると
なぜそろばんなどが欲しいのか
電卓でもなんでも使えばいいのに
こだわる必要なんてないのにと
決心が鈍ってくる
仕方なくうなだれて床を見ている
結局そのまま店を出て
坂を下って家に帰る
途中、橋に大きな猩々がいて
大きな口でにやにやと笑っている
あの大きな口も飯や人を食うのだ
わたしはこれからどうやって
食べていけばいいのだろう
飯を、ではない
人を


自由詩 そろばん屋 Copyright 春日線香 2016-01-02 18:35:07
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