手紙
あおい満月

切れた指の皮膚の、
先端から咲いた小さな焔が、
野を駆けるように、
街へと拡がっていく。
私の思念のなかの街へと。
思念の街には色々な人が住んでいて、
皆、凍えながら何かを待っている。
焔は街を焼き払うためではない。
そこに暮らす人々に、
細やかなぬくもりを与えるため。

*

私は憑かれたように
手紙を書く。
神龍を宿したその背中から、
伝わる熱に向かって。
其の背中のあなたは、
ただただ笑うだけかもしれない。
けれど、
感じたものは忘れない。
私はその背中の感動を
写真に撮るように便箋に書き取る。

**

私はいつも、
子どもと同じ目線になる。
私には子どもは居ないが、
子どものなかの無限に拡がる小宇宙に
いつも耳を澄ます。
子どもはいつも、
私が今まで読んだことのない
詩や物語を教えてくれる。
そこにはいつも小さなかなしみと、
大きな喜びがある。
私は子どものことばを、
水のように取り込む。
そうしてネルのような布で濾して、
きらきらと生きをすることばを
えらぶのだ。

***

やじろべえが、
私の頭を次々と弾く。
はじかれるたびに、
殖えていく。
殖えるたびにことばも殖えていく。
私はそれが嬉しくて、
弾かれる旅をするために
電車に乗る。
駅のホームのざわめきこそが
私の渇いた喉を潤す。
私は旗になって伸びていく窓の明かりを
ごくりと一つ飲み干した。

****

星の風に包まれて、
子どもたちは眠っている。
明日もまた、
私に物語をお話ししてね。



自由詩 手紙 Copyright あおい満月 2015-12-31 18:31:18
notebook Home 戻る