捕鯨船長
レタス

真鍮製の羅針盤は
あまりにも正確な方角を示し
一等航海士は舵輪をゆっくりと回し
船長は満足な頬笑みを湛えていた

明日は金曜日だから
今夜のメニュウは
特製のカレーライス
久々の上陸に
船員達は大はしゃぎ

札束を握り締めて
散りじりに
街中に消えてゆく

船長は奪ったクジラの命を数え
晩祷を夜空に捧げ
静かにグラスを傾けた

巨鯨を追いかけた日々は戻らない
いまはもう
羅針盤が正確である事だけが彼の望みだった
南十字星が彼を守ってくれたことに感謝した
シロナガスクジラを追えなくなって数十年
彼の瞳は衰えていた

正確な羅針盤がゆく末を占い
ゆっくりと
祈りを空と海に捧げ

奪ってきた命のを指折ながら
数えてゆく

晩祷は果てしなく続く


自由詩 捕鯨船長 Copyright レタス 2015-12-24 01:10:07
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